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弱いCPI後、ドル売りが続いた理由

2022年11月10日の米CPIを、当時の政策テーマ、発表前の3シナリオ、複数市場の反応、その後約3か月の判断更新まで振り返ります。

2022年11月10日の米CPI後、USDJPYの下落とXAUUSDの上昇が24時間続いた推移
2022年11月10日の米CPI後、USDJPYの下落とXAUUSDの上昇が24時間続いた推移

このケースは、重要指標が政策金利の見通しを変え、初動がそのまま一日のトレンドへ発展した例です。

当時の市場では、インフレが鈍化すれば、Fedが利上げ幅を75bpから50bpへ縮小できるという見方が意識されていました。 総合とコアがそろって大きく下振れたことで、12月会合の政策織り込みは50bpへ傾き、米2年金利の低下とUSDJPYの下落が24時間続きました。

当時のテーマ

2022年のFedは、コロナ禍の景気支援からインフレ抑制へ政策の軸を移していました。 2021年から続いた供給制約と強い需要に、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー高が加わり、物価上昇は幅広い品目へ広がっていました。

2022年11月CPIまでのインフレ抑制と利上げの流れ

時期 Fedの政策と市場が見ていたもの
2020〜2021年 ゼロ金利と資産購入で景気を支援
2022年3月 25bp利上げでゼロ金利を解除
2022年5月 利上げ幅を50bpへ拡大
2022年6〜7月 2会合連続で75bp利上げ
2022年8月 Powell議長がJackson Hole講演でインフレを2%へ戻す姿勢を明示
2022年9〜11月 さらに2会合連続で75bp利上げ。政策金利は3.75〜4.00%へ上昇
2022年11月2日 利上げ幅を小さくする時期と、政策金利の最終到達点を分けて説明

11月2日のFOMCでは、今後の利上げ幅を小さくする時期が近づく一方、政策金利の最終到達点は従来予想より高くなり、利上げ停止を考える時期もまだ先だと説明しています。 そこで11月10日のCPIが問われたのは、インフレの鈍化を確認できるか、12月の利上げ幅を75bpから50bpへ落とせるかでした。 雇用は依然として強く、この日の政策見通しを動かす材料はCPIがどこまで鈍化するかでした。

発表前に見えていた材料

11月9日の米2年金利は4.61%で、高い政策金利が長く続く見通しを反映していました。 9月以降の金利高、ドル高が残る一方、12月会合では50bpと75bpの両方が意識されていました。

市場予想は総合CPI前月比+0.6%、コア+0.5%です。 Cleveland Fed Nowcastは総合+0.760%、コア+0.539%です。

発表前のシナリオ

分岐 政策織り込みの変化 判断候補
上振れ 75bp利上げと高い最終到達点の見方が強まる ドル買い
予想付近 50bpと75bpの判断が残る 金利反応を待つ
下振れ インフレ鈍化と50bpへの減速が織り込まれる USDJPY売りまたは金買い

結果と反応

系列 市場予想 実績
総合CPI 前月比 +0.6% +0.4%
総合CPI 前年比 +8.0% +7.7%
コアCPI 前月比 +0.5% +0.3%
コアCPI 前年比 +6.5% +6.3%

4項目すべてが予想を下回りました。 ドルは初動から激しく売られ、USDJPYは1時間後−303.3pips、24時間後−662.0pipsです。 金は1時間後+28.0ドル、24時間後+51.1ドルでした。 米2年金利は当日−27bp、S&P500は+5.54%です。

CPI後には、12月の利上げ幅を50bpとみる見方が中心へ移りました。 米2年金利、ドル、株、金は、いずれも50bpへの再評価に沿って動きました。 USDJPYと金の値動きが24時間後まで続いたことから、政策織り込みの更新が初動後も続いていたと判断できます。

私ならどう判断するか

当時は発表の前月の2022年10月21日に為替介入があったのもあり、ドル円はピークアウトした後の状況でした。 金利織り込みも激しく進んでいる状況。

この状況でインフレが下振れ、政策金利パスの変化を示唆すれば大きな下落があると考えられます。

事前に入るならショートが有利な状況だと考え、当時自分はショートを事前に入れていたのを覚えています。

ただ、事前ショートはポジション計画全体の半分とし、発表後に結果を見てのトレードも計画に入れていました。

結果は上記で述べた通り。 利益1000万規模のトレードだったと記憶しています(履歴はもう残っていません)。

指標発表後は、政策金利の道筋が変わったかを米金利とドルの値動きで確認します。

その後

11月10日のCPIはUSDJPY下落の初動を作りました。 その後もドル円の下落は3か月続きましたが、その期間にわたってショートを保有するには、その後のデータと政策発言が「インフレ鈍化と利上げ幅の縮小」を追認する必要がありました。

CPI後の確認イベントとUSDJPY下落トレンド

日付 確認材料 トレンドへの意味
11月23日 FOMC議事要旨 大多数の参加者が、利上げペースを近く落とすことが適切と判断
11月30日 Powell議長講演 12月にも利上げペースを落とす可能性を明示
12月13日 次のCPI 総合とコアが再び予想を下回り、インフレ鈍化をデータで追認
12月14日 FOMC 利上げ幅を75bpから50bpへ実際に縮小
12月20日 日銀のYCC修正 10年国債金利の許容変動幅を拡大し、日本金利の上昇を通じて円買いが加速
1月12日 さらに次のCPI 総合CPIの前月比マイナスと前年比鈍化により、利上げ幅のさらなる縮小を織り込む動きが進行

FOMC議事要旨とPowell議長の発言は、11月2日のFOMC声明と会見からある程度の方向を読めました。 これらは、75bpから50bpへの減速シナリオが崩れていないことを確認する材料です。

次のCPIは、新しいデータとしてより大きな意味を持ちました。 12月13日のCPIも下振れたことで、11月に始まったインフレ鈍化のテーマがデータで追認され、USDJPYの戻り売りを続ける根拠が残りました。 翌日のFOMCでは、利上げ幅が実際に50bpへ縮小されました。 一方、2023年末の政策金利見通しは中央値5.1%へ引き上げられ、一時的なドル買い材料になりました。 USDJPYは途中で反発を挟みましたが、利上げ幅縮小のテーマは維持されました。

12月20日からは、日銀のYCC修正が円側の材料として加わります。 米国の利上げ幅縮小によるドル売りと、日本の金利上昇余地を意識した円買いが重なり、USDJPYの下落トレンドはさらに進みました。

その後は25bpとYCC修正を織り込み切り、2月3日の強い雇用統計をきっかけとして下落トレンドが終了しました。

数時間から一日程度のトレンドでは、直後の金利と値動きが主な確認材料になります。 数週間から数か月へ保有期間を伸ばすほど、その後のデータと政策判断が同じテーマを追認しているかが保有判断を左右します。 追認が続いている間はトレンドに沿い、データが反対方向へ変わったり、政策織り込みが巻き戻ったりした場合は、ポジションを縮小する根拠になります。

このケースは、そのよい例でした。

初動は一つのイベントで生まれます。 長いトレンドは、その後のデータと政策判断が同じテーマを追認することで続きます。

参照資料

  1. Consumer Price Index — October 2022U.S. Bureau of Labor Statistics確認日 2026-07-19
  2. Federal Reserve issues FOMC statement — November 2, 2022Board of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  3. Transcript of Chair Powell's Press Conference — November 2, 2022Board of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  4. Minutes of the Federal Open Market Committee — November 1–2, 2022Board of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  5. Inflation and the Labor MarketBoard of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  6. Consumer Price Index — November 2022U.S. Bureau of Labor Statistics確認日 2026-07-19
  7. Federal Reserve issues FOMC statement — December 14, 2022Board of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  8. Statement on Monetary Policy — December 20, 2022日本銀行確認日 2026-07-19
  9. Consumer Price Index — December 2022U.S. Bureau of Labor Statistics確認日 2026-07-19
  10. Monetary Policy and Price StabilityBoard of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  11. Open Market OperationsBoard of Governors of the Federal Reserve System確認日 2026-07-19
  12. Inflation NowcastingFederal Reserve Bank of Cleveland確認日 2026-07-19
  13. Market Yield on U.S. Treasury Securities at 2-Year Constant MaturityFederal Reserve Bank of St. Louis確認日 2026-07-19
  14. Nominal Broad U.S. Dollar IndexFederal Reserve Bank of St. Louis確認日 2026-07-19